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  改正労働安全衛生法について

2014年6月の国会で、労働安全衛生法(以下安衛法)が改正されました。
改正ポイントは以下の6つです。

1.化学物質管理のあり方の見直し
2.メンタルヘルス対策の充実・強化
3.受動喫煙防止対策の推進
4.重大な労働災害を繰り返す企業への対応
5.外国に立地する検査機関等への対応
6.規制・届出の見直し等

それぞれについて見て行きましょう。

1.化学物質管理のあり方の見直し
これは、オフセット印刷を行っていた従業員に、数多く胆管がんが発生した事件に対する反省と対策です。
この事件では、原因物質として特に1,2-ジクロロプロパンが強く疑われていますが、この物質は改正前の安衛法では安全データシート(SDS)の交付義務はあったものの、リスクアセスメントがされていませんでした。
もしもリスクアセスメントがされていたのであれば、事前に肝臓への負担を察知したり、ここまでの人数に至る前に発見できていた可能性も十分にあったものと考えられました。
したがって、元々の安衛法では石綿などの製造禁止物質8物質に加えて健康障害が多発していた116物質に対して個別の規制をかけていましたが、今回の法案でそれにさらに加えて、これまではSDSの交付のみが義務であった一定の危険、有害性が確認されている524物質に対して、リスクアセスメントをすることを努力義務から製造者の義務へと変更しました。

SDS:
安全データシート。対象となった化学物質を指定の割合以上含む製品を他者に提供する際に、その物質についての性質や取り扱いについてまとめたもの。

リスクアセスメント: 職場の潜在的な危険性又は有害性を見つけ出し、これを除去、低減するための手法。
化学物質については、例えば使用した物質とその場所、使用した量と関わった労働者を特定し、対象物質の有害性情報を取得、ハザードレベルを決定します。
さらに、対象物質の曝露評価を行い、この曝露評価と先ほど決定したハザードレベルから、リスクレベルを決定します。
あとは、そのリスクレベルに応じた措置を検討し、この措置の結果について適宜検討を行っていきます。

2.メンタルヘルス対策の充実・強化
過労やパワハラなどに伴う精神障害の労災申請件数及びそれに伴う労災認定件数の増加に対応したものです。
医師または保健師によるストレスチェックが従業員50人以上の事業者に義務付けられました。(50人未満では努力義務)
さらに、そのストレスチェックの結果、労働者が希望をした場合には、産業医などによる面談を実施し、その意見を聞いた上で、必要に応じて事後措置を実施することもまた義務付けられました。

1ヶ月100時間を超える時間外労働を行っているような過重労働者については、前回の安衛法改正で既に希望者に対する医師の面接指導が義務化されていましたが、今回の施策では、過重労働者にかぎらず、広くストレスチェックを行い、その上で希望するものについては面談を行うことが求められています。

3.受動喫煙防止対策の推進
喫煙による健康に対する被害の知識の広まりと、それに伴う受動喫煙の防止が叫ばれるようになって久しいです。
今までは事業場の受動喫煙については、法律上の条文としては健康増進法や、安衛法の快適職場にその根拠を求めていましたが、今回の改正で安衛法にも受動喫煙の防止が明記されるようになりました。
具体的には、本法案では受動喫煙の防止のために、事業場の実情に合わせて適切な措置を講ずることが事業者の努力義務とされています。
以前の改正案では、飲食店などを除いては完全禁煙もしくは分煙することを事業者の義務とすることとなっていましたが、今回の法案では努力義務と、後退しています。
これは、義務としてしまうことで国や自治体などからの支援策がなくなり、取り組みが進まなくなることを懸念したものである、と言われています。

4.重大な労働災害を繰り返す企業への対応
同様の重大な労働災害が同一企業の別の事業場で繰り返し発生する事がいくつか見られたことに対する対策です。
基本的に労働災害が起きるのは、原因(事業者の何らかの不備、機械の不具合を放置 など)があって結果(労働災害)が起きることが多いです。
これは、特に重大な労働災害ではそういった傾向が多く見られます。
事業場ごとに産業衛生スタッフの配置義務がある通り、本来ならその事業場の特性にあわせて安全対策を練っていくのが通常なのですが、最近では事業場をまたいで同一の企業内で同様の重大な労働災害が見られる傾向があります。
これは、今までのような事業場ごとの作業環境の問題ではなく、企業全体の風土、例えば長時間の時間外労働やパワハラを容認する社風であったり、ある事業場から報告が上がってきてもそれが他の事業場に対してフィードバックされないシステムであったりすることなどが考えられます。
したがって、安全衛生関連法規に違反し、一定期間内に同様の重大な労働災害を繰り返し発生させた企業に対して、厚生労働大臣が、「全社的な改善計画」の作成を指示し、実施しない時などは勧告できるようにし、それでも従わない時は企業名を公表する仕組みを作ることになりました。

5.外国に立地する検査機関などへの対応
近年の企業のますますのグローバル化により、機械などの設備を海外から輸入することも増加したことに対する規制改革案です。
今までは例えばボイラーのように危険性が特に高いとされる機器を製造、輸入する際には通常都道府県労働局長による使用検査もしくは、指定外国検査機関の検査を受験、合格しなければなりませんでした。
これらのことについて、これからは外国に立地した検査機関の検査・検定であっても可能となります。

6.規制・届出の見直し等
昨今の技術水準の向上により、他の手段で目的が達成されている規制については緩和する方向に見直す事になりました。
項目としては、大規模の工場で生産ラインなどの新設、変更する場合は従来は事前の届け出が必要でしたが、近年の商品サイクルの早さなどと相まって、この届出が不要になりました。
また、電動ファン付きの呼吸用保護具については、これから型式の検定が必要になり、譲渡が制限されるようになりました。

では、これらの改正を受けて企業の担当者はどういった対応を必要とするのでしょうか?

まず、一番大きいものとしては、化学物質の管理見直しです。
これは、見てきましたように、500種類以上の化学物質について、リスクアセスメントを今までの努力義務から義務へと引き上げるものでした。
この変更への“制限時間”は2年以内、とされています。
ですので、化学物質を取り扱っている企業の担当者は、自分の会社が取り扱っている化学物質について、それが今回規制強化されたものに該当するかを確認し、該当した場合には2016年の6月までにはリスクアセスメントを実施しなければいけません。
リスクアセスメントの具体的なやり方としては、該当する化学物質を使っている場所、取り扱っている労働者とその作業内容を把握した上で、それらの労働者の作業環境と作業時間とから、化学物質への曝露レベルを求めます。
さらに、化学物質の有害性に関する情報を入手し、その物質のハザードレベルを決定します。
この曝露レベルとハザードレベルとから、リスクレベルを決定し、リスクレベルに応じた防止措置や低減措置を実行し、これらの計画、実施、到達状況についてPDCAサイクルを回していく、と言った方法です。
上記の手順それぞれについて、決定に至った経緯や参考資料については、これらを確実にファイリングして、いつでも提出できるようにしておくことも必要なことと考えられます。

また、今回の改正安衛法とは少しずれるのですが、安衛法はその28条に、
化学物質による労働者の健康障害を防止するための指針を公表するものとする、
との記載があります。
この記載に従って、この数年は1年に1回程度、がん原性指針が改定されています。
2011年に8つ、2012年には2つ、昨年は1つの物質が、新しくがん原性指針に定められました。
つまり、科学の進歩にともなって、今まで発がん性が高いとはわからなかった化学物質が、発がん性が高いのではないか、と考えられるようになった、ということです。

この指針の改定については、法律の改正とは違いますので、指針の改定からその適用までが極めて短いのが特徴です。
例えば、2011年の改定は3ヶ月後でしたが、2012年及び2013年の改定は改定されて同日適用されました。
ですので、化学物質を扱う企業の担当者様におかれましては、指針の改定などが無いかどうかを可能な限り毎日チェックすることが必要です。
もしもこのチェックを怠っている間に指針が改定、適用されていた場合には、企業としてその化学物質への対応が出来ずに、労働者の健康に影響がある可能性があります。
1,2-ジクロロプロパンの例を挙げるまでもなく、現場の労働者は、会社が労働者の健康に気をつけて、化学物質を扱う作業の環境や防御策などを整備してくれていると信じて働いています。
これらの信頼に応える意味でも、コンプライアンスを守る意味でも、担当者様は化学物質などの安全情報に対するアンテナを高く持つべきだと思われます。
したがって、指針の改定にとどまらず、薬物の安全性について常に情報収集を行っていくことが必要になってきます。

次に、メンタルヘルス対策です。
広く労働者に対してストレスチェックをしていく必要がありますが、これについての“制限時間”は1年6ヶ月以内です。
ですので、2015年末までに、職場のメンタルヘルス担当者らは医師もしくは保健師と連絡をとって、ストレスチェックを職場で行ってもらわなければいけません。
ここで注意しなければいけないのは、ストレスチェックの結果については必ず、労働者本人に対して伝えるようにする、ということです。
検査のお金を払っているのは事業主でも、個人情報保護の必要が有ることから、会社の担当者に直接その結果が来てはいけません。

話を戻しますが、担当者は医師もしくは保健師にストレスチェックを実施してもらう体制を作った上で、そのストレスチェックをどのように行うのかの環境整備も必要になります。
このストレスチェックについては、アンケート方式もしくは対面での聞き取り面接が想定されているため、対面での聞き取りを行うなら、そのための時間と場所が、アンケートを行うのであれば、アンケートの内容と回収方法、さらに個人情報保護を確実に行うため、事業主からは見えないような回収手段が必要になってきます。
そうやって実施されたストレスチェックの結果については、先述の通り事業主が保管するものではないのですが、後日必要になることもあるかと思われますので、ストレスチェックを行った医師・保健師や、面談を希望した場合の産業医など、事業主とは独立した信頼のできる産業衛生スタッフのところなどに保管しておく必要があります。
さらに、これは今回の改正に限った話ではありませんが、面接を行った結果と、その事後措置についてどのように考え、なにが行われたのか(もしくは行われなかったのか)についてのプロセスも書面に残しておくことが必要でしょう。

さらに、職場の受動喫煙防止についてです。
これについては、制限時間が1年間とかなり短い時間となっています。
したがって、2015年の6月までには受動喫煙の防止に対して何らかの方向性を決定しておく必要があります。
官公庁や病院などの公の場所では既に健康増進法などの定めにより既に全面禁煙となっています。
今回の改正では、それぞれの事業場についてはあくまでも禁煙化ではなく、受動喫煙の防止が目標となっていますし、義務規定ではなく努力義務規定となっています。
ですので、官公庁などと同じ対策を要求されているわけではありません。
とはいえ、努力した証を残す意味で、最低でも、受動喫煙の防止に対して、事業場として
どのように考え、どのように対策を練り、どんな行動を起こしていくのか
と言った意思決定のプロセスについては、書面に残しておくことが必要と考えられます。
例えば事業場として対策は行わないとしても、社内で受動喫煙対策委員会を開催し、その結果について議事録を残して保管をしておく、といったことなどです。

繰り返しになりますが、今回の改正案では分煙化などの対策をなにもしなくても法律違反ではありません。
ですが、法律の決定を受けて、会社として意見を聴取し、その結果として責任者(社長など)がどのような決定をしたのか、については記録に残しておく必要があるでしょう。

付け加えると、元々以前(第181回)の国会で安衛法は改正案が出ていました。
ですが、衆議院が解散されたことで廃案になったという経緯があります。
ここで問題になるのは、この廃案となった改正案では、それぞれの事業場について全面禁煙もしくは分煙を義務としていた、ということです。
それが今回の改正案では努力義務にとどまったのは、禁煙・分煙化に至るプロセスにワンステップ置いて、国としてそのプロセスに支援しよう、ということになったからです。
ですので、次回の安衛法改正では、飲食店などを除くすべての職場について、禁煙化もしくは分煙化が義務規定とされ、その変更に対する支援策がなくなる可能性が十分に考えられます。
職場の担当者におかれましては、そういった経緯を意思決定者などによく伝え、その上で方針決定を行うように促すことを強くおすすめします。

4番目の改正条項については、担当者として何かをしなければならない、といったことは、少なくとも厚生労働大臣から改善計画作成を指示されるまではありません。
ですが、会社名の公表により会社のブランドイメージが傷つく可能性があることについては留意しておくべきでしょう。

最後に届け出の見直しについてですが、
電動ファン付きの呼吸用保護具については型式検定・譲渡制限の対象に付け加えられました。
この期限は6ヶ月間と非常に短いです。
ですので、特に東日本大震災の災害復興など、建築業に関わられる方につきましては、
現在ご使用中の呼吸用保護具の型番と、その性能についてもう一度厚生労働省のページなどを参照して、2014年末までに確認しておくことが必要です。

今回の改正案を受けて、最低でも上記のような対応をしておくことが、コンプライアンス上必要になります。


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